インタビューレポート:第一回 ゼロベース社長 石橋秀仁氏!〜「上司不要論:エンジニアの未来的働き方の追求」〜
プロフィール
石橋秀仁
コマーシャル簡単作成サイト「
コマーシャライザー」などを手がけたウェブ開発・制作会社である
ゼロベース(株)創業者で。アーキテクト。新規事業向けウェブサイト/ウェブサービスの受託開発業者。企画コンサルティング、ディレクション、デザイン思考、ユーザインタフェイス設計などのサービスを提供。異分野の才能の協働を通じたイノベーションに取り組む。
佐藤孝治
1972年東京都生まれ 早稲田大学社会科学部卒。 就職活動後、大学4年生の 96年10月ジョブウェブを創設。97年7月、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。99年10月、ジョブウェブを法人化。 現在、株式会社ジョブウェブ社長として講演や勉強会などに全国を飛び回っている。学生の就職支援と企業の採用支援を通じて学生と企業の本音コミュニケーションをサポートしている。近著に『
<就活>廃止論』がある。
先日、当社社長佐藤孝治によるエンジニアインタビュー、
Ustream同時生中継が行われた。インタビューには、ジョブウェブユーザーを代表して学生2人も同席し、盛り上がった。記念すべき第一回目のゲストは、ゼロベース代表取締役社長石橋秀仁氏。元々知り合い同士という二人から、どんな話が飛び出すだろうか。
「プログラマー」名刺を持って東京へ
佐藤:石橋君とは、以前からの知り合いなんですよね。現ウノウ社長の山田進太郎氏などが参加していた、学生ベンチャー支援プロジェクトのキックオフイベントの交流会で会ったのが最初でした。「プログラマー 石橋」と書いた名刺をもらったんですよね。
石橋:まだ高専卒業前のことでした。2000年頃で、“ビットバレー(渋谷近辺のIT企業の集まり)”という言葉が流行っている時期です。
佐藤:いてもたってもいられなくて来たということですか?
石橋:そうです。自分だけ取り残されている気がして、来てみたのです。
佐藤:「プログラマー」という名刺をもらったので、声をかけて、ジョブウェブにインターンとして来てもらったんですよね。
石橋: 5日間だけのつもりで来たのに、そのまま入社することになってしまったんですよね(笑)。バッグ一つで家も決めないまま行ったので、初めの2,3ヶ月はオフィスに寝泊まりすることになってしまいました。
佐藤:ジョブウェブもシェアオフィスをしていた時代でした。そこに、石橋君は段ボールで家を造り、椅子を並べてベッドにして住んでいたんですよね(笑)。
マネジメントがない会社
佐藤:その後、独立起業されたんですよね。
ところで石橋君は、一般の常識を越えた仕事の仕方をしていると思うのです。自分で自分の面倒を見られる人は評価するとか、生産性ではなく創造性を評価するとか、とても自由でまさにエンジニアの未来的働き方だと感じます。
既存の会社のあり方が限界にきているので、石橋君のやり方がヒントになるのではないでしょうか。そういう考えはどこからスタートしているのか、なぜそうなったのかにも興味があります。
石橋:僕は何かと色々なことが気になる性質で、だから“ゼロベース”という社名にしたくらいなのです。
ジョブウェブを辞めてから1年9ヶ月間、フリーランスをしていました。その時、“個人事業主”という言葉は、実体を表していないと感じたんですよ。エンジニアも商店もデザイナーもどれも違うのに、全て“個人事業主”でひとくくりにされてしまいます。個人事業主とは雇われてない人のことですが、プロジェクトベースではクライアントと契約するので、広い意味では雇われています。雇用には色々な種類があると思ったんですよね。
チームでなければできないことがありますが、人が増えるとマネージメントの必要が出てきます。僕がマネージメントしている時に破綻が起きてしまい、自分のマネージャーとしての能力に問題があると感じました。様々なマネージメント関係のビジネス書を読んだのですが、そういう本は中小企業の社長みたいに面倒見がいいことが前提に書かれているわけです。しかし僕は真逆で、マネージメントがまったくできないことを自覚しました。そこで、マネージメントしなくてもいいような会社を作るしか生きる道はないと考えたのです。
このような考え方は、理論化も体系化もされていません。けれど、もしゼロベースが理論化できたら、世の中にもっと面白い会社が生まれるかもしれないと考えています。それぞれが個人として自立しつつチームで仕事をするという、個人とチームの良いところを同時に実現する方法論を求めて、実証実験しているところなのです。
好きでやっていることは強い
佐藤:ゼロベースに未経験の人が入社した場合、育ててもらえる可能性はあるのですか?
石橋:基本的に教育システムはありませんが、結果的に成長できる可能性はあります。
というのは、僕がフリーの時もお客様が育ててくれて成長できました。つまり、教育制度がなくても、自分の給料分だけ売り上げようとすれば、仕事を通して成長できるかもしれないと考えています。そのためには、学生時代に自走できるエンジンを積んでいる状態になっておく必要があります。特に、エンジニアは自ら成長できるようでなければいけないと思います。
好きでやるからこそ成長できる
佐藤:なるほど。
石橋:僕自身、エンジニアだったから運がよかったのかもしれないですね。好きでやっているからこそ成長できる面があると思うのです。好きでやっていても活躍できない世界もあるけれど、エンジニアはそうではありません。たとえばオープンソースに、多くの人が無償で取り組んでいます。そのように好きでやっている人に、義務感だけでやっている人が勝てるはずがありません。
父を早く亡くしているのもあって、僕には「人生は限られている」という感覚があります。そもそも、好きで取り組めないことを仕事に選ぶのは、自分にとって幸福なことではないんじゃないでしょうか。ただそれは好きなことを仕事にすればいいということではなくて、やってみて楽しいと感じたことや、性格や素質に合っていて一生やりがいをもってできそうなことを選ぶといいということです。
より上位の目的のためならつまらない仕事はない
佐藤:請け負う仕事も、自分の命を投資するに値するプロジェクトかどうかで選んでいるのですか?
石橋:長期的には知的好奇心や創造性が発揮できる仕事を優先しますが、短期的にはお金のための仕事も行います。けれど、お金のための受託仕事に意味がないとは思わないんですよ。より上位の目的として、自分たちは「こういう仕事のスタイルを10年、20年と続けていられるか」の実験をしていると思っています。「もっと大きなことのためにやっているんだ」と思えたら、どんな仕事にも意味は見出せます。
“会社”の形態が当たり前とされすぎている
佐藤:石橋君の仕事のやり方がクライアントのクリエイティビティを刺激して、結果的に命がけの仕事になってしまうことはあるのですか。
石橋:たまにはありますが、頻繁ではありません。そこが会社組織の限界だと思うのです。本当は、大きい会社ほどクリエイティビティが求められていると思うのですよ。大会社がうちと仕事をするのは、それを求めているからではないかと思うのです。
今は、“会社”という形態が当たり前とされすぎていると思うんですよ。100年ごろ前までは、10人以上の組織はまれだし、一生奉公することなどほとんどありませんでした。それが今では逆転してしまい、働くことの多様性が失われ、大きな会社で働くことが古くからの伝統であるように言われているのが、多様な働き方の可能性を狭めていると思うのです。
ほとんどの人は今の会社のあり方しか知らないため、今の会社の仕組みに自分を無理矢理当てはめているのではないでしょうか。本当は自分に合った働き方ではないかもしれないのに。たとえば、独自性が大事なゲーム会社が毎年決まった売り上げを上げなければいけないというのは無理があり、実体に合っていないと思うのです。もっと人を幸せにする組織を考えるべきだし、もっと働きやすい会社にできるのではないかと思うのです。
佐藤:壮大ですね。後の歴史に、そういう働き方が“ゼロベースシステム”と言われるかも。
マネージャーのない世界とは
佐藤:では、ここで学生さんに感想を聞いてみましょう。
井上(学生):マネージャーのない世界というものが想像できなくて、難しかったです。
石橋:たとえば自分がイラストレーターだったら、イラストが必要な時に依頼がきますよね。どんなイラストがほしいか相談して、見積もりを出して、受注して、描いて、納品して。そのときは誰にもマネージメントされていないのです。お客様に進行指示はされますが、それは作業指示で、マネージメントとは言いません。マネージメントがない働き方は、いわばイラストレーター的な働き方と考えればいいでしょう。
この働き方が組織という単位になった時にどうなるかというと、たとえばフリー仲間が10人くらいいるケースでお話しします。その仲間には、イラストレーターの他に、コピーライター、ディレクターなど、様々な業種の人がいます。ディレクターは、コストやスケジュールなどを管理して発注者の注文にかなうようにプロジェクトマネージメントします。ただ、ディレクターはイラストレーターをプロジェクトマネージメントするものの、イラストレーターのキャリアプランを考えたり成果をフィードバックしたりなどのいわゆる“マネージメント”はしていません。しかし、イラストレーターの進行管理が甘かったら、ディレクターに指摘してもらうことがあるかもしれない。それは教育であり、会社で行われているマネージメントの一種でもあるのです。
そのように、フリーランス集団ではできているのに本当に会社にはできないのだろうかと考えて、今の「マネージメントのない働き方」を考え出したのです。
会社でできることの実証実験
井上(学生):フリーでもできるのに、会社にしていますよね。なぜ会社をやっているのですか。
石橋: 現時点では国家が「正社員」を制度的に優遇しているため、会社に所属するメリットは大きいです。フリー集団「チームゼロベース」でもいいけれど、得だから会社にした方がいいということなのです。個人では取り引きしてもらえず、会社にする必要があるという理由もあります。
ただそれでも、生きていくだけなら会社である必要はありません。僕には、「新しい会社のあり方を見つけたい」という思いがあるんです。「会社でこういう働き方もできる」というモデルが示せたら、多くの人に役立てるかもしれないじゃないですか。いわば、僕らが実証実験をしているのです。こういう選択肢があることで、みんなの生き方の可能性が広がることに意義を感じています。
変化に素早く対応することが大事
佐藤:出会った初期に、「これからはRuby(ルビー/スクリプト言語)ですよ」と言っていましたよね。その言葉通り、最近色々なものがRubyで作られているじゃないですか。そのように、これから来る新しいものを見つけてくるセンスはすごいですよね。エンジニアとして生きるには、石橋君のようにいち早く来るものをキャッチアップして、みんなが知らない時に始めてその分野のトップになれるといいのかなと思うのですが。
石橋:未来予測はあまり当たっていると思っていないんですよ。予測の精度を上げるよりも、変化に対して素早く対応できた方が生き延びることができると思っています。
もしそれでも予測しようと思うなら、自分がその分野でどの位置にいるかを知っておくことです。そして、自分がよく知らない分野については「ついに俺のところまで来たか(いまから取り組んでも第一人者にはなれないな)」と受け止めるべきなのです。たとえば、Twitterがきたからこれからビジネスをやるというのは、2、3年前からやっていた人から大きな後れを取っています。しかし、自分自身が仕事で日々見ているところから出てきたものは、イノベーター(新技術の先進性を評価し、採用できる人びと)として普及初期段階に判断することができます。そのように、普及段階における自分の位置がどの辺りかを知り、その上で判断することが大切です。
そもそも知らないことには賭けてはダメで、ある程度分かっていることを、調べるだけ調べてから賭けるべきです。そして、どんな未来がきても対応できるように、一つに張らず両張りしておくといいですね。
僕は、未来予測をしなくていい組織のあり方を目指しているんですよね。たとえば年次の予算策定をしないことも考えています。予算を立てないなんて、大企業や上場企業ではありえませんよね。でも、僕らは言ってみれば利益を出さなくてトントンでもいいわけで、予算に縛られる必要はないんです。
佐藤:自分たちがわくわくするなら、売り上げがあまりなくても仕事を取るということですか?
石橋:というより、会社の中にある社会主義的メカニズムを解体したいんですよ。普通の会社は中国とかロシア的で、トップダウン型です。営業が500万円受注してきてもいったん会社に入ってから給料としてもらうので、自分のものになっている感覚はないですよね。
うちは、お金を握っている人がいなくて、各自がお金を持っているというやり方を取っています。みんなが利益を上げることで会社がまわるようにしたいので、社内の制度設計もそうしています。そうしておけば僕がいなくても成立しうるじゃないですか。
佐藤:仕事には、その企業にお願いすれば成果が担保されていると見込んで発注するケースと、個人の能力を見込んで発注するケースがあります。ゼロベースは石橋君のアイディアに頼る部分が大きいのかなと思うのですが、企業は会社としてのゼロベースに依頼しているわけですよね。ゼロベースには、石橋君がいなくなってもクリエイティビティを発揮できる仕組みがあるのですか。
石橋:仕組みを作ってしまうと、適応能力がきわめて低くなりますよね。時代が変わった時にマニュアルで縛ったビジネスをしていたら売り上げが落ちるけれど、個々人が適応能力を持っていたらそれほど下がらなくて済みます。うちには、ゼロベースとしてのアイディアを担保する仕組みはありませんが、結果的にお客様の期待を上回るような生態系にしていこうと考えています。
創造性を追求することで効率性向上を狙う
佐藤:学生の二人は、質問はありますか?
silvers(学生):利益目標を立てないと効率が悪いのではないですか?
石橋:一般的に、効率的にすると創造性が下がります。僕は、効率より適応力が大事だと思うんですよね。たとえ少し効率が悪くても、環境が変わったときに生き残れるようにしていたいし、結果的に儲かればいいという考え方です。
井上(学生):楽しんで仕事して、結果的にお金が入ればいいということですか?
石橋:僕はプロフェッショナルという言葉が好きなんですよ。できているかどうかは別にして。その上で言えば、「楽しくやった結果として儲かる」はプロじゃないと思うのです。だから、むしろ地に足を付けて目先でも利益を出し、その上で将来の大きな構想を抱けることが重要だと思っています。
佐藤:効率追求は創造性につながらないので、創造性を追求することで結果的にブレイクスルーして効率性が上がることを目指しているのですね。
個性的を目指さず、独創的たれ
井上(学生):こういう発想はどこから生まれるのですか。
石橋:人と同じことが病的にいやなんですよね。
ただ、独創的であろうとは考えていません。そもそも、独創的になろうと思ってなれるものではない、と考えています。「独創的なのは素晴らしい」と言っている独創的ではない人が腹立たしいんです。そう言う人たちに、「人と違う人間の苦しさを知っているのか」と聞きたいくらいです。個性的だと基本的に苦しいことが多いけれど、それでも少しでも気持ちよく生きていく方策を模索しなくてはなりません。そして、もがくうちに何かに巡り会います。それが、これらの発想なのです。
「個性的」と「独創的」は同一視されていますが、そうではありません。「個性的」はその人の本来持っているパーソナリティー(個性)が人と変わっているということで、「独創的」は人と違う考えができるということです。独創性は努力で身につけられますが、個性は変えることができません。もし、独創的でありつつも、不適切な場面では独創性を隠すこともできるという器用さがあれば、理想的かもしれませんが。
ネットで得られる機会を活用せよ
佐藤:これから社会に出ようとしている後輩たちに、メッセージをお願いします。
石橋:たくさん本を読んで、バリエーションに飛んだ考えに触れて、色々な人に会って、その中で自分の方向性を見つけ出してもらいたいと思います。ネットには人とコミュニケーションする機会や、人との対話を通して自分を見つめ直す機会がたくさんあるので、活用してもらいたいですね。
佐藤:最後に、学生のお二人に感想をお聞きします。
井上(学生):今まで考えもしなかった考え方が聞けてよかったです。多角的な考えをした方が自分の考えも深くなる気がします。
silvers(学生):会社と個人事業主とか、マネージメントがないという考え方とか、色々と勉強になりました。こういう会社が増えるといいなと思います。
佐藤:こうやってちゃんと話をしたのは福岡でサウナに行った時以来かもしれません(笑)。石橋君が、新しい時代のあり方、個人としてのあり方を模索されているのを感じました。今日この日に同席できたのは貴重な機会だったと感じます。
これからの石橋君とゼロベースの進化に全米注目です(笑)。いずれこの考え方を「ゼロベース式」として出版してほしいですね。今日はありがとうございました。
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